2009年2月22日日曜日

きみの背中で、僕は溺れる


 半年以上、間が空いてしまいました。何とか、再開に至りました。ペースは落ちるかもしれませんが、がんばりますね。

 卒業を前に進路の決まらぬ大学生の祐司は、姉が連れてきたフィアンセ佐伯透に一目で恋に落ちてしまった。だが姉の幸せを願う祐司は、自分の気持ちを封じようとする。そんな祐司を誘い出したのは、透のほうだった。祐司と透、それぞれの孤独と、止めようのない恋。痛ましいのピュアな愛が切々と胸を打つ、第1回ダ・ヴィンチ文学賞優秀賞受賞作「But Beautiful」に、その後の祐司を描いた書き下ろし1編を追加収録している。
 メディアファクトリーから2008年10月に発売された文庫です。
著書の沢木まひろはで、2006年に上記文学賞優秀賞を受賞後、「WEBダ・ヴィンチ」や「L25mobile」にて小説を連載している。実はいろいろ調べても素性が明らかにならない。東京都に住む女性ということしかわからない。
 主人公の青年が好きになったのは、姉の婚約者だった、という同性愛がテーマというだけで惹かれて購入した作品。読み終えて切ない感じが残った。文章も読みやすい。
手に入れた瞬間、失うことが怖くなる。しかも相手は姉の婚約者。姉と確執はない。たまたま好きになったのが姉のフィアンセだったということだけでは済まされない関係だ。そして肉体関係を持ったらそれは罪となってしまう。自分でも許せないような恋を、率直な言葉でわかりやすく描き出す。 就職の決まらない大学生というあやふやな位置からの恋愛。「But Beautiful」は、祐司の若さが瑞々しく、清潔感を感じる恋愛小説だった。
 追加収録の「What's New?」は祐司の目線ではなく三人称で書かれており、直接的にピュアな感情が赤裸々には伝わらなった。6年間という時間の隔たりは、ピュアさを失った大人の物語だ。後悔や罪悪感、不都合や不条理をすべて抱え込んで、生きていくことができる。年を重ねるということだ。純粋を失い力強さを得るのだ。
 つまりは、陳腐なありふれた恋愛小説だが、ゲイであり、そこから派生する面倒くさいことを誰でもが共感できる書き方で表現しているから、好感が持てるのだ。
 しかし悲しいかな、深く追及されたものにはなっていない。もっとどろどろしていないと真実味がないと思うのは、経験から得る自分の性癖と感情のせいだろうか。正直になればなるほど、上品できれいでしかも常識的ではいられない。修羅場になるものだ。きれいに身を引いてしまっては、嘘つきだと思うのだ。嘘つきが悪いとは思わない。その方が幸せなことが多いから。
 正直、女性が書けばレズビアンの感情は書けるが、ホモセクシャルの感情は追及に限界を感じてしまうように思う。またトランスジェンダーだと訳が違うだろうけど。
 あなたがいなかったらきっと、今の僕もいないんだ―この祐司の心の中の呟きに集約されている気がする。


「きみの背中で、僕は溺れる」, 沢木まひろ著, メディアファクトリー文庫, 2008年10月発売, 524円