1万8千人にインタビューを行い、「性」の実態のリサーチに生涯をかけた実在の学者、キンゼイ博士の生涯を描いた感動作。『シンドラーのリスト』のリーアム・ニーソンがキンゼイ博士を演じる。本作でゴールデン・グローブ賞にノミネートされた。監督は『ゴット・アンド・モンスター』のビル・コンドン。製作総指揮にフランシス・フォード・コッポラが名を連ねている。本作でゴールデン・グローブ賞、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたローラ・リニーの熱演に注目。
今でこそ、赤裸々な“SEXレポート”が普通の女性誌に登場する時代だが、この映画の舞台となる今から50年前のアメリカは、そんな話はとんでもなく御法度。そんな時代に、性の実態のリサーチに本気で取り組み、生涯を捧げた実在の学者・キンゼイ博士の波乱の生涯を描いた伝記映画だ。本業は動物学者のアルフレッド・キンゼイ博士が、自身のSEXの悩みで医者の門を叩いたことから、「性」体験の実態に興味を持ち始める。その心は、人は千差万別、人と違って当たり前。それを知らずに悩める人々の助けになれば、と始まった調査。独自のインタビュー方法を編み出し、多くの男女から様々な性の実体験、人には言いづらい秘密を調べ上げ、まとめた「キンゼイ・レポート」は驚異の大ベストセラーに。ところがあることがきっかけで、彼の栄光は失墜する。研究にのめりこむあまり、人間社会の倫理を踏み越え、夫婦間以外のセックスを是としたりする研究員らの関係は、やはり衝撃的だ。特に驚くのが、アメリカ社会の、セックスに対する閉鎖性だ。男性の性意識調査を拍手で迎えた社会が、女性版になるとバッシングの嵐に変わる。自由の国アメリカは、同時にセックスを罪悪視するピューリタンの国でもあったと、今さらながら痛感させられた。どんなセックスにも偏見を持たなかったキンゼイを、今、描く意味がある。それにしても、興味や疑問を持つと追跡調査&実験してみないと気がすまない、キンゼイの学者キャラが面白い。元々彼には同性愛の志向もあったらしいのだが、助手の一人がゲイと知り、さっそく実験に及んでしまうシーンもある。しかし物語は、博士と妻クララの強い絆と愛、それゆえの葛藤を軸に、研究に没頭する彼が行き着く先まで、追いかけていく。そこに真実の愛の重みと感動がある。リーアム・ニーソンとローラ・リニーの芸達者が、若年から老年までを演じ切り、魅せる。
ここで、ちょっとゲイブログらしいエピソードを書くと、途中生徒と関係を持つシーン、クリス・オドネルの全裸シーンがモザイクもなしに出てくる。びっくりした。ここはゲイ必見かもしれない。
結果、辿り着いたのは、人間は一人一人違うのが当たり前だということだった。性行為の分析を通して、人間には"多数派と少数派"が存在するだけで、"ノーマルとアブノーマル"という分け方はないと主張したのだ。それは、"自分らしく生きたい"という、現代社会では誰もが抱く願いを持つ人々に、勇気と希望を与えたのだ。そしてさらに、結局人間にとっていちばん大切なものは、科学では測定不可能の“愛”だという、たったひとつの答えにたどり着いたのだ。依然困難の予想される未来を前にしながら、穏やかな境地に辿りついた彼の姿を遠く追って物語は幕を引く。
◎作品データ◎
『愛についてのキンゼイ・レポート』
原題:Kinsey
2004年アメリカ・ドイツ合作映画/上映時間:1時間58分
監督:ビル・コンドン
出演:リーアム・ニーソン, ローラ・リニー, クリス・オドネル, ティモシー・ハットン, ジョン・リスゴー